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あいおい法律事務所
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都市における農業の価値~N農場事件から
環境の世紀ともいわれる21世紀における都市の開発のあり方を問う

1 問題の所在

(1)N農場について

N家は、1700年頃から続く農家です。N市M区に、1.1ha弱の農地(N農場)がありました。農地の内訳は、田んぼ、畑・果樹園、ビニールハウスがほぼ3分の1ずつでした。N農場の農地は、同区N地区に点在し、近隣の農地とともに、いわゆる「里地」の風景を作っていました。灌漑用水は、N川(一級河川の支川)からの自然流水が田移りに利用されていました。
N家は完全な専業農家で、夫婦、娘、娘婿の4人がN市の認定農業者でした。また、夫は、A県のエコファーマーの認定も受けていました。

(2)N市N特定土地区画整理事業(本件事業)について

N市は、N農場を含むN地区について、計画的な新市街地の形成を企図し、平成7年に都市計画を決定し、平成13年には第1期造成工事が着工されていました。N農場は、第7期工事区域に指定され、計画では、N川の氾濫原であった当地について、2m盛土の上、宅地として造成される予定になっていました。

(3)本件仮換地指定処分

N家に対する本件仮換地指定は、田んぼへの田植えも終わった平成20年5月30日に通知されました。それによると、減歩率は約54%にも上り、通知の効力発生の日はわずか18日後である同年6月16日(効力発生後は法律上従前の農地を使用収益することができない)、仮換地先の現況は竹藪であり、使用収益を開始することが出来る日は「未定」とされていました。
専業農家であるN家としては、農地の半分以上を失っては、農業を存続することは出来ません。田植えが終わったばかりの農地を使用収益出来ないとすれば、生きていくことができません。これが、本件の問題の所在でした。

2 仮換地指定処分取消請求・効力停止申立

(1)事業組合による嫌がらせ

N家は、不服審査請求をしつつ、従前地で事実上営農を続けました。そして、不服審査請求に対する回答のないまま秋を迎えましたが、事実上営農を続けるN家に対し、現場では、事業組合による嫌がらせが続いていました。
当職らは、同年10月27日法律相談を受けて、すぐに仮換地指定処分取消請求の提訴と、その効力停止の申立を同時に行うための準備に入りました(提訴・申立は、12月24日)。その提訴等の直前、同月18日午前8時、N農場に予告もなく事業組合の重機が入り、小麦を作付けしていた田んぼの表土を掘り起こし水路を破壊しました(強制破壊工事)。

(2)争点①「照応の原則」違反

ア 仮換地指定も、いわゆる照応の原則の適用を受けます((土地区画整理法89条1項、98条2項)。これは、従前地と仮換地とが、通常人が見て大体同一条件にあると認められるものでなければならないこと(縦の照応)と、同一事業の施行地区内における他の権利者との公平が保たれていること(横の照応)の2点から成る考え方です。
イ 当職らは、減歩率が54%であること、耕作面積に比例して収穫量の減少が想定されること、指定された仮換地は2m近く盛土された上耕地として造成されないことから従前地ほどの生産性を見込むことはできないこと、また盛土が予定されていることから従前の自然流水による利水が望めないがどのように水路が整備されるか不明であること等から、縦の照応が取れていないことを指摘しました。
ウ これに対し、事業組合側は、仮換地はいずれも例外なく総代会の議決に基づき路線価評価方式で宅地として評価していること(横の照応)、本件従前地はいずれも道路に接していない島地又は幅員2m未満の道路に接している土地に過ぎず、また、付近は公共施設の極めて未整備な状況であり、かつ、散在した農地であるのに対し、仮換地は、幅員6mないし9mの区画道路に囲まれた一団の土地として集約され、かつ、長方形又はそれに近い整形な形状であり、付近は都市計画道路志段味環状線が新設される外、区画道路及び供給処理施設も新設置され、宅地としての利用価値は著しく増進するので、総合的に見て照応している(縦の照応)等と主張しました。

(3)争点②「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」にあたるか(行政事件訴訟法25条2項本文)

当職らは、平成20年12月18日に起きた前記「強制破壊工事」をもって、効力停止の緊急の必要性があると主張しました。しかし、事業組合側は、提訴後に、N家に対し、第7期以降の工事区域内の組合所有農地について、今後3年程度の使用収益を認め、これをもって緊急の必要性はないと反論しました。

(4)裁判所の判断とその影響

平成21年3月30日、効力停止申立事件について、裁判所は、争点②に関して、事業組合の主張を容れて、緊急の必要性はないと判断し、申立を却下しました。しかしながら、争点①に関しては、「申立人らが専業農家であることにも鑑みると、本件各仮換地処分により、農業の継続が困難になるなど、後の金銭賠償によっては損害の回復を図ることが著しく困難な、重大な損害を被るものと認めるのが相当である」との判断を示しました。
裁判所のこの判断は、事業組合側に衝撃を与え、本訴において、N農場の換地先を、竹藪から従前地のN農場のコアエリア周辺に変更し、かつ、2mの盛土を伴う宅地造成工事を行わない方向での和解協議が始まりました。
そして、平成21年10月23日の期日において、組合から、①減歩率について位置・形状・高さ等の変更により、緩和する。②事業計画者であるN市の協力を要請し、原告所有のビニールハウス周辺の環境保全が可能となるよう事業計画の変更を行う等を内容とする和解案が示され、訴外で、N家、組合及びN市を当事者とする三者協議を持つ運びとなりました。

3 三者協議について

(1)三者協議は、N市の経営アドバイザーであるK氏(元環境省地球環境審議官)を座長として、同氏の強いイニシアチブの元、将来の営農が可能となる
 ①減歩率
 ②取水の確保
 ③日照の確保
などについて、約5か月間に実に12回の協議を重ねました。
(2)合意の成立とその内容
 そして、平成22年4月28日、
 ①換地先を従前地のN農場のコアエリア中心とするエリアとする、
 ②減歩率を25%とする、
 ③日照確保のため、N家の自宅宅地を農地の南側に換地する、
 ④取水については、S川と組合が設置する井戸で対応すること
などを内容とする合意が、N家と事業組合間で成立しました。
(3)また、N市は、N農場周辺に約1haの土地を確保し、市長は、同日、関係者や市民の参加の下当地の自然環境を出来る限り保全すること、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の開催市として生物多様性を実感出来る新しい形態の都市の自然地域づくりを進めていくこと等の声明を出しました。

4 本件の成果

土地区画整理事業において、自治体の協力の下、農地及び自然環境が保全される運びとなったのは、かつて例がありません。
環境の世紀ともいわれる21世紀における都市の開発のあり方として、今後、モデルケースとなるよう発展を期待しています。
なお、この記事は吉江仁子が執筆いたしました。

野田農場 アオサギ 野田農場 ミニトマト
※ 写真の説明
①2010年7月17日撮影 N農場の田んぼの中で佇むアオサギ
②2010年7月5日撮影 保全されたビニールハウスで色づくミニトマト